梅の生け方
梅の木の本質:
梅はバラ科の落葉喬木(*1)。葉は楕円、又は、卵形で、花弁は5弁または6弁であり、春に花が咲く。花の色は白、紅、薄紅などがあり、香りが良く、実をつける。幹は剛健で、太い枝、細い枝ともほとんど垂直に勢い良く1年に数十センチ以上伸びる。これを「ズアヘ」という。梅は男性的であり、自然のたたずまいが良く、万物に先駆けて花を開くため「四君子」(*2)の一つに数えられている。 梅は雪霜をしのぎ他の花よりも早く咲くので「春の魁(さきがけ)」とも言う。花を挿けるには一重の白梅が最も良いが、紅白それぞれ特徴があり、上品で風雅な趣(雅味:ガミ)がある。 |
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*1: | 喬木:丈の高い木。樹木のうち、おおよそ丈が人の身長より高く、一本の太い主幹が明瞭であるものをいう。松、梅、ケヤキなど。高木。『大辞林 第二版』 | ||
*2: | 〔気品に満ち、風格があるところからいう〕東洋画の画題で、蘭(らん)・竹・梅・ 菊のこと。『大辞林 第二版』 |
挿方の基本
梅の花の性質を表すため、他の花の花形とは少し異なり、用留の腰を低く体だけを立ち昇るように勢いよく挿ける。 留には老樹を体には若い樹を使い、小枝などの交叉はあまり綺麗に切り取らないようにする。 梅の花は桜と同じく里から咲き始め、次第に奥地にむけて咲き、一本の木でも下枝から咲き、また、若木より老木が先に開花するので上の部分に莟みを多く使うように挿ける。梅はその種類によって枝の性質も異なる。挿ける時には、その性質を良く知っておくこと。 |
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若木: | 若木は主に真の扱いをして強く伸び上がった形を現すために体の部分に使う。また、若木は 賑わしく生けても良い。 | |
老樹: | 老樹は主として行草(*3)の扱いを行い、専ら簡素に小枝花を割合少なく幹が繁雅にならないように挿ける。また、老いた枝は留に使うこと。 *3:花形を参照 |
梅枝の取り扱いについて
梅の枝を見立てて曲げることはでき難いが、枝に半分位鋸で切り目を作り、折っても水揚げに差し支えはない。また、梅は大枝小枝が交じり合うもので、「女」という字に見える枝が一本の木のうちに沢山ある性質があり、それを一瓶の内に現すのを「女画」の法と言う。女画は胴の添えか留の奥の方に作る。出来るだけ作るほうが良いが、出来ないものを無理に作る必要はない。 |
注意事項
1) | 楚(*4)は梢が枯れた枝の中段から若楚を使うのが本質であり、軸先に若楚があるときは その枝を使わないこと。また、幹がなく楚ばかりを挿けるのは自然に叶わないので良くない。 | ||
2) | 古木に楚を使い梅の性質を尊んで生けても、若木の場合には楚も女画も不必要である。尚、楚の長さは花器の大小に拘らず如何に長くても差し支えはなく楚は花形に関係せず。 | ||
*4: | 楚(すわえ):細く、まっすぐな若枝。 | ||
3) | 梅と蘭は香気があるものであり、香席、茶席にはこの二種類の花を挿けない。 |
梅の挿け方
1) | 白梅紅梅の挿け方 | ||
白梅は閑静に、紅梅は賑わしく何れも古瓶が最も似合う。 | |||
2) | 八朔(はっさく)梅 | ||
「朔」は一日を意味し、八月一日を「八朔」という。梅の早咲きで、八朔の頃に咲き八重の淡紅色の花をつける梅を八朔梅と言う珍しい梅である。 | |||
3) | 南性・北性梅の生け方 | ||
南性梅 南性・北性と言うのは中国から来た言葉で、南性とは揚子江辺りに咲く陽気ある花で早く咲き南にでた用の枝に花が多く咲き満ちる様子を生け、用の枝は長く伸び反対に留の枝を短く挿す。南性の梅は陽気を主とする梅で咲き満ちる様子をいける。花形は主位で挿ける。満ちれば欠ける、これを「陽中の陰の梅」という。 注)花形は主位で生け、用には花が満開の枝を挿ける。体、留には莟みの枝を 挿ける。 |
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北性梅 北性の梅は中国陽州あたりの季候を言う。開花を使わず莟みばかりで閑静に挿ける。用の枝を短くして南に伸びた留の枝を長く使う。北性の梅は寒気を主とする梅であり莟みばかりで生け、これを「陰中の陽の梅」という。花形は客位。 注)花形は客位で留の曲で挿ける。莟の枝を使い、 特に、留に莟を多く使う。 |
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4) | 臥竜梅(がりゅうばい)の生け方 | ||
臥竜梅は東京亀井戸天満宮の神域にある梅の一種である。この梅は地上に枝が地まで垂れ下がり根を付けて又上に伸びる性質の梅であり、光圀公が「臥竜梅」と名付けたという。 この梅の姿を普通の古木を用い、その枝を垂れた枝に見立てて挿けるもので、水面を地上と見立てて留の枝を水を潜らせ、又上に枝先を出す挿し方(「水潜りの梅」)である。水潜りにより先へ出たところを一瓶の花と心得、即ち、一瓶にて二瓶の花を愛する心持にて取り扱うべきものである。水潜りの枝を無理に曲げるのは風情がなく、冬のうちに枝を見立てておくこと。用により水潜りの枝を作るときは、花留めを反対の位置に置いて挿ける。 |
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5) | 夜の梅の生け方 | ||
広口に水を張り、梅の枝を向こう側の縁に持たせ、花を水に写すものである。花枝にこしらえた枝を広口の後ろへ道具の見えないように短い筒に挿す。水は黒色であるから夜をかたどる。これは夜の来客の饗応であり即席の座興にすぎないものである。利休翁の奇策という。 | |||
6) | 梅根〆 | ||
梅の根〆には寒菊、金銭花、菜の花、福寿草、椿など色々使うが水仙、ふきのとう等を使うこともある。梅に最もふさわしいものは椿であり、絵画にも「歳寒二友」(*5)と言って2種類の花を取り合わせたものが多くある。水仙は椿に次いで合うものであるがお互いに匂いが邪魔しあうので紅梅に限り水仙の根〆を用いる。 *5:画題の一。梅と菊を描いたもの。 |